「砂のミクロ観察」    上原勝景

 

「美しき壱岐の筒城浜」 

 

 「美しき壱岐の筒城浜」

 

1 砂浜へのいざない!

   初秋、壱岐の島を訪ねた。

   太陽が照りつけ、まぶしく光る離島の砂浜を軽飛行機から眺めたとき、赤土

  が混じった砂浜かと見まちがうほどの色が目に映った。

   美しい曲線を描く褐色の砂浜と、紺碧の海とのコントラストが素晴らしい。

   まさに光と砂の粒が織りなす自然の創作です。

 

  私はこれまで、自然探究のひとつとして、美しい砂浜に魅かれ、その生い

  立ちを辿るために、長崎の海の砂を中心にミクロ観察を続けていますが、

  それにしても不思議に思える色でした。

   この色を創りだしていたのは、一ミリにも満たないひと粒一粒の小さな砂の

  色でした。

 

 壱岐の空港へ降り立ち、地元の方の話を聞きますと、砂浜に対する興味は

 さらに倍加しました。

 

 「この島の砂の多くは貝殻を中心に出来ているんですよ。このために、海も

 きれいなんです。ときどき桜貝も見つかりますよ」という。

 

 夢見るような話を聞いたあと、私は壱岐で最も広いという「筒城浜」へと向

 かいました。

 

 浜は弓の弦を引いたように幾何学的な弧をえがいて遥か遠くへと延び砂浜の

 美しさを見事に表現しています。

 

 夏の季節が過ぎ人影もなく、波に洗われて鏡のように清められた砂浜に足を

 踏み入れてみました。

 

 これまでの砂浜の感触ではなく抵抗が少ないようです。足跡のくぼみも深い

 ように思えました。

   すこし、手にすくって眺めてみました。長崎の本土の砂浜で観察していた

  石の砂ではなく、重さや形も異なっていました。

 

 

2 稚貝たちとの出会い

 

  色とりどりに見える小さな粒のはっきりした形は、裸眼でとらえることは

  できません。

 

 砂を持ち帰り、手持ちの顕微鏡で観察をすることにしました。いつもそう

 して眺めては砂の種類を確認して、写真を撮ることにしているのです。

 レンズを通して拡大された映像に私は目を見張りました。

 

  そこにはこれまで見てきた石の砂ではなく、色鮮やかな稚貝の殻をはじめ

  サンゴや名も理解できない美しい粒のオンパレード。

  はじめて見る砂の世界がありました。

 

  一ミリにもみたないさまざまな色と形。表現の言葉も見当たりません。

  ただ、美しくて、可愛らしく・・・

 

 レンズを通して現れてくる様々な色と形を追いながら砂粒のロマンは果て

 なくひろがっていきました。

 

 ちいさな、膨大な量の粒が、気が遠くなるような年月をかけて創りあげた

 古代からの贈り物、「砂浜」いや「貝浜」とでも表現しておきましょうか。

 長い弓のような浜のどれだけの深さ、どれほどの海の広さをこの貝殻は埋め

 つくしているのでしょうか。

 

 この、稚貝の殻の母親の名前は何であろうか。あまりにも小さくて書をひも

 といても確かめることすら難しいほどです。

 

  艶やかで、みごとな模様と色、生き物が創りだす自然からの宝物のような贈

  り物です。

 

  南の島のサンゴ砂や、星砂など単独の浜は見事ではありますが、壱岐の砂浜

   で見る数多くの種類の粒の集まりの砂浜は、鮮烈な印象でした。

 

 

「野母崎海水浴場」